誕生! 山形村短角牛ジャーキー

Bird's-eye viewイメージ 2

Topics  2017.1.24 
誕生! 山形村短角牛ジャーキー
                           
 このほど岩手県久慈市の新たな特産品に、短角牛(日本短角種の牛)のビーフジャーキーが加わった。ゆたかな自然環境をもつ同市山形町で育てられる短角牛は「いわて山形村短角牛」のブランド名をもち、その滋味深い赤身肉は高い評価を受けている。また、首都圏の感度の高いレストランなどでは貴重な食材として用いられている。今回は、この山形村短角牛を用いたビーフジャーキー開発ストーリーを、久慈市地域おこし協力隊員(久慈市山形総合支所勤務)の志水彩子(しみず あやこ)さんへのインタビューを通して追ってみた。(聞き手=宇部芳彦・久慈市地域おこし協力隊)

 
おいしいジャーキー
めしあがれ

 イメージ 12016年4月から久慈市の地域おこし協力隊として山形総合支所に勤務している志水彩子(しみずあやこ)さん。このほど、久慈市山形町の農畜産物の加工販売を手がける第三セクター・総合農舎山形村と共同により山形町特産の短角牛を使った「山形村短角牛ジャーキー」を商品化しました。
 志水さんは開発の経緯と販売現場での反応などについて詳しく、ときにユーモアを交えて話してくれました。

山形村短角牛ジャーキーを手にする志水さん。
商品化に成功し久慈市の新たな特産品に!



 
しっとりした歯ざわりで
赤身肉のうま味拡がる
イメージ 3
  ―― 新年あけましておめでとうございます。と言ってももう1月13日(=取材日)ですから遅ればせながらですが。
 さて、遅ればせながらと言えば志水さんが総合農舎山形村(以下・農舎と記述)とともに開発・商品化した「山形村短角牛ジャーキー」についてのお話しを聞かせていただくのも遅くなってしまいました。今日はよろしくお願いします。

 志水 そう、ちょっと遅いですよ(笑)。短角牛ジャーキーの開発途中に、味見をしてくださいと本庁の地域づくり振興課(=筆者の所属課)にも持って行ったじゃないですか!
 もう少しまじめに情報収集しないとだめですよ(笑)。

  ―― まいったな…、では気をとり直してまじめにインタビューさせていただきます。さて、正式名称は「山形村短角牛ジャーキー」ですね、発売日は去年(2016年)11月23日。現在は、どこで販売していますか?
 志水
 農舎のホームページで注文を受けているほか、山形町の道の駅「白樺の里やまがた」、久慈市内では「やませ土風館」またJAの「ふれあい産直ショップ花野果(はなやか)」です。今後は、東京・銀座にある岩手県のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」などでの販売も検討しています。
  ―― 反応はいかがですか。
  志水 もちろん好評で、「おいしい」という反応です。発売開始日の11月23日は「三鉄べアレンビール列車」運行の日でした。盛岡の地ビールメーカーのべアレン醸造所が久慈駅から田野畑駅をビール飲み放題で往復する特別列車を仕立てたイベントですけれども、三鉄久慈駅前に農舎が屋台をだして販売しました。
イメージ 4 電車の中では、みなさんに「とてもうまい!」と、おすみつきをいただきました。
 ―― 価格は?
 志水 23日は発売記念で5g入り150円(税抜き)で提供しました。たくさんの方々にいっぱい買っていただきました。
 通常価格は10g入りが360円(同)、30g入りが1,080円(同)です。
 ―― みなさんが「おいしい」と言うのは?
 志水 「肉のうま味が濃厚で、ほかのビーフジャーキーとくらべてやわらかな歯ざわりだね」と評価してくれました。もともと山形村短角牛は、赤身で余計な脂肪分が少なくヘルシーで肉の味そのものがとても滋味深いんですが、この山形村短角牛の特徴を十分にひきだした味にチューニングしていることが評価されたと思います。まさに、一般的なビーフジャーキーとの差別化ポイントがこれなんです。
 ―― そうですね。私も食べてみましたが、しっとりとしていました。味もとても素直で、ストレートに短角牛のうま味が口の中に拡がった…
 志水 おいしかったでしょう! この味に決めるまでには、何回も試行錯誤を重ねているんですよ。


外からの視点を活かしイメージ 5
新たな特産品の開発へ

 ―― そもそも短角牛ジャーキーの発想はどこからでてきたんですか?
 志水 私のミッションは山形町の特産を使った商品の企画で地域おこしをすること。昨年4月に協力隊に着任したときに「山形特産の短角牛を使った商品企画をしてほしい」と所属する産業建設課から言われていたんです。
 今回のジャーキーの発売元である㈲総合農舎山形村は㈱大地を守る会と新岩手農業協同組合久慈市(旧山形村)との第三セクターになるわけですが、この農舎と久慈市で山形町特産品を使用したお土産品開発という事業がありまして、そのなかで、ある程度保存もきく短角牛ジャーキーをつくろうということになったんです。
 ―― 特産を使った新しい商品開発企画をしようということですね。ある程度の保存というのは?
 志水 短角牛の商品には精肉やハンバーグ、カレーレトルトなどがあるのですが、それとは別に、もっと簡単に食べられるもの、また、買った人が友人などにあげることができるもの、つまり観光記念の「お土産品」になるように短角牛のジャーキーをつくろうということになったわけです。
 ―― 農舎と志水さんの役割は、どのようなものだったんですか。
 志水 商品化に向けての会議を農舎さんと何回も行なってきたんですが、私の役割は地域おこし協力隊員として、よそ者の目をもって商品化に際して協力していくこと。
 話し合いの内容を受けて、実際の味つけや試作品づくりなどは農舎さんが行ないました。山形総合支所のメンバーを集めて試食を行ない意見を出し合ったり、私は主にパッケージングを担当しました。
 ―― 影のプロデューサーということになる?
 志水 そんな偉そうな立場ではありませんよ。いっしょになって、新しい山形の特産品をつくろうとしただけ、メンバーの一人にすぎません。完成したときには町民のみなさんに「新しい山形の特産品ができた」とよろこんでいただきました。
 ―― 基本的な質問ですが、ビーフジャーキーの加工の工程はどのようなものなんですか?
 志水 簡単に言うと牛肉を味つけして、乾燥させるという工程ですね。ここで農舎さんと話し合ったことは、「短角牛の赤身のうま味をきちんと残すこと」なんです。
 ―― 味つけ、また乾燥時間はどれくらいなんでしょうか。
 志水 それは秘密ですよ。それこそが生命線ですから教えられません(笑)。
 ちょっとだけ明イメージ 6かすと、調味料は多すぎると味が濃くなり肉の味を損ないますから、砂糖、塩、酒、醤油などでシンプルな味つけにしています。
 ―― 乾燥については
 志水 しょうがないなー(笑)、ヒントを言います。一般的に、乾燥時間を長くすると水分が飛んでしまってジャーキーが固くなります。でも、メリットもあって、水分が飛ぶと賞味期限を長くできるわけです。
 山形村短角牛ジャーキーは肉のうま味としっとり感をだすために乾燥時間を最適にするために何回も試行錯誤を重ねたんですね。地域づくり振興課に持って行って味見をしてもらったのも、乾燥がどうなのかなど反応を確かめるためです。ちなみに、山形村短角牛ジャーキーの賞味期限は冷蔵1か月です。



いわて銀河プラザでの「久慈フェア」のようす


高付加価値資源の宝庫
無添加・100%の力 ~

 志水 そうそう、昨年12月5日から8日までのイメージ 74日間、東京の「いわて銀河プラザ」で「久慈フェア」という催しがあったんですが、そこに短角牛ジャーキーを出品し、販売してきました。
 銀座という土地がら勤め人が多く、混みはじめたのは夕方5時以降だったんですが、とてもたくさん買っていただきました。
 ―― 地元感覚では「30gで1,080円はちょっと高い」かなとも思うんですが、それでも銀座のサラリーマンたちはいっぱい買ってくれた…?
 志水 はい。試食をすすめて「保存料などの食品添加物は一切使っていません、無添加ですよ」と言ったら「え、そうなの?」とおおぜい集まってきた。「味が濃すぎないところがまたいいね」と。値段について「高い」と言う人はいませんでした。
 ―― 無添加が人気の決め手になったわけですか?
 志水 添加物の入った加工食品に都会の人は敏感ですからね。春から秋のあいだは放牧されて広々とした牧場の大自然のなかで牧草を食み、冬は牛舎で国産飼料だけが与えられて育つのが「山形村短角牛」(=写真左下)、そのジャーキーですから価値があることを認めてくれたんですね。
 ―― なるほど、そうした付加価値に対する感覚はわかるような気がします。一方の地元感覚、つまり「高いのでは」という感覚については、私の意見を言わせてください。
 先ほど志水さんは、「土産物」あるいは「プレゼント」になるようにと思い開発したと言いましたね。
 私自身そうなのですが、どこか遠くの観光地に出かけた場合、どこでも手に入るようなものを買って帰りたいとは思わない。食べ物にしてもそうで、せっかくだから当地でしか食べられないものを口にしてみたい。お土産も「その土地に行ってきた」ことがわかるものを
イメージ 8買って帰る。人にあげるものであればなおさら、これが「本物」というものを選ぶだろうと思います。
 志水 同感ですね。ただ、塩辛い味つけや濃い味つけが好みのかたもいると思います。そして、自然の食品が豊富にある地元久慈市民の感覚からすれば、いまの価格は多少高いのではないか…と。でも、くり返しますが「短角牛のうま味を最大限ひきだしたジャーキーにしよう」と決めたのです。
 地元久慈市の人でも短角牛を口にしたことがない人が多いと思いますが、そうした人たちにも本物のおいしさを伝えたい…。農舎さんはできる限り採算ラインギリギリの価格設定にしてくれています。こうした考え方を理解していたければと思っています。
 ―― 地元では、どうしても日常の生活感覚の中で捉えてしまいますからね。いっそのこと贈答品としての高級感をだすためにハコに入れるなどしたらいかがですか?
 志水 今後の動向を見て農舎さんに提案させていただくかもしれませんイメージ 9が、いまは販売を開始したばかり。どんどん県外でも売っていきたいので、私も営業活動に力を注ぎますよ。
 ちなみに、現在の透明なパッケージに貼られているラベルには「山形村短角牛は大自然の中で愛情を込めて丁寧に育てられた牛です」という説明を入れています。当初は「贅沢な厚切りで…無添加で…」とこの短角牛ジャーキーの特徴を説明するラベルを貼ろうと言っていたのですが、「それよりも山形村短角牛とはどのような牛なのかを訴えましょう」と私が提案して、現在のものを採用してもらったんです。
 ―― なるほど。地域おこし協力隊員ならではの視点といえますね。
 志水
 そういえば、銀河プラザでは短角牛ジャーキーのほかにも大人気だったものがあるんですが、それは何でしょうか?
 ―― 山形町の特産で?
 志水 正解は山形町産のハチミツです。ほらぁ、久慈市の地域おこし協力隊員の宇部さん(=筆者)も山形のハチミツの存在を知らない、しかも宇部さんは去年、山形総合支所勤務だったのに。
 ―― 面目ない…
 志水 まぁ、市民でも知らない人が多いんですけれどね…。
 これも山形町の養蜂家たちのハチミツで100%天然。中国やハンガリー産のハチミツや水あめをブレンドイメージ 10している国産ハチミツも少なくないんですよ。
だから、100%天然の山形のハチミツは銀河プラザで、飛ぶように売れたというわけです。
 ―― それは、すごい!
 志水 ハチミツも山形町のすばらしい自然環境が生んでいる資源ですね。町内のゆたかな自然のなかで育つ花々からハチが集めた蜜ですから。
 いずれにしても「無添加、100%天然」などのすばらしいものには相応の価値を認めていただける。それがよくわかる出来事でしょう? そんな隠れた名品や資源はまだまだ山形にはいっぱいあるはずです。
 山形は自然の恵みがつくりだす高付加価値資源の「宝庫」ですよ。
 ―― 恐れ入りました。
 志水 こちらこそ、山形村短角牛ジャーキーに注目していただいて、とてもうれしかったですよ。今日は本当にありがとうございました。



文化を知り 人を知り
地域を知る
イメージ 11
 ―― ちょっと待って、インタビューを終わりにする前に聞きたいことがあるので、もう少し時間をください。風のうわさで「志水さんが散弾銃の免許をとったそうだ」と聞いたのですが、それは本当のこと?
 志水 山形のハチミツは知らないのに、そんなことは知っているんですね(笑)。
 ―― 広く浅くアンテナを張っているのが私の特徴ですから(笑)。
 志水 正しくは「狩猟免許」と言います。私がとったのは第一種狩猟免許で、これが散弾銃の免許。そしてもう一つとっていまして「ワナ猟免許」、箱型などのワナを仕掛けて猟をする免許のことです。去年の夏にこの2つをとりました。
 ―― なんのためにとったのですか?
 志水 山形の野山の環境、そして文化に深くふれたいと思ったから。私は神奈川県小田原市の出身ですけれども、久慈そして山形でしかできないことを体験したいと考えたんです。イメージ 12
 ―― 私が山形総合支所に勤務していた一昨年、総合支所のすぐそばの道にクマがでてきてあせったことがあります。そのときはクルマを運転していたので、すばやく通り過ぎました。山形町の隣の久慈市山根町ではクマに人がおそわれてドクターヘリで病院に運ばれたこともありました。
 志水 師匠たちは全員が60代以上なんです。そしていま、山形にはこの人たちだけしか猟をする人がいません。ということは、このまま時間がすぎていけば害獣被害が大きくなるだろうし、文化も風化してしまいます。
 ―― 本当にその通りですね
 志水 私自身はじめたばかりですが、若い猟師をふやす活動もしていきたいです。それと、冬の山形、雪と白樺の山形もとてもきれいですよ。
 ―― なんだか山形町へでかけたくなってきました。
 志水 そう、山形にきてガタゴン(道の駅白樺の里やまがた)で山形村短角牛ジャーキーをいっぱい買って、ね!

                   インタビュー2017年1月13日/文・宇部芳彦(久慈市地域おこし協力隊)

                    *商品の詳細その他について
                     総合農舎山形村ホームページ  
http://www.nousya.jp/index.html