急速に拡がる いきいき百歳体操

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Topics  2017.2.3
 まちに活力 地域に笑顔
  - 急速に拡がるいきいき百歳体操 -

 高知市発の「いきいき百歳体操」が岩手県久慈市の地域住民グループに急速に拡がりはじめている。住民が主体となって運営する「いきいき百歳体操」の取組みは、健康のための体操という側面はもとより、地域コミュニティ活性化の効用も発揮しはじめた。久慈市内のいきいき百歳体操の取組みとはどのようなものなのか、もたらしている地域活性化効果とは?
 久慈市地域包括支援センターでいきいき百歳体操の地域導入推進と導入サポートを担当している髙松香(たかまつ かおり)さんに話を聞いた。


500人を集めた講演会
~市民体育館で盛況に~

 8月29日、久慈市民体育イメージ 2館に約500人もの市民を集めて「地域でつくるみんなの元気」講演会が開催された(=左写真)。
   主催は久慈市、共催は県北広域振興局、久慈市社会福祉協議会
 岩手県保健福祉部の西川博志氏による「楽しみながら健康づくりに取り組もう」と題した講演や、高知市健康福祉部の小川佐知氏による「いきいき百歳体操でめざそう!健康長寿のまち久慈」と題された講演、久慈市地域包括支援センターによる「久慈市の現状とこれからの取り組み」についての情報提供などが行なわれ、講演会は盛況のうちに幕を閉じた。
「いきいき百歳体操は、とことん住民主体のもの。地域グループなど住民のみなさんが主体になって運営しているものです。取り組まれている方々、体操しているみなさんの活き活きした笑顔を見るたびに本当にうれしく思っています」イメージ 3と言うのは久慈市地域包括支援センター(以下・支援センターと記述)で導入推進また導入時のサポートを行なっている主任看護師兼主任保健師の髙松香さん。

高知市から全国に波及

 いきいき百歳体操はもともと高知市が元祖で、平成14年に介護予防推進のために同市が開発したもの。0kgから2.2kgまで10段階に調整可能なオモリを手首や足首に巻きつけて、イスにすわりながら手足を動かす筋力運動が主体になっている。
 当初、体操の会場は高知市内2か所のみだったというが、その効用の高さなどから全国に拡がり、平成24年5月時点では高知市内外を含め全国50数市町村・1,500か所以上の会場で実施されるようになったという。
 岩手県内では平成27年から軽米町、平泉町、一関市、北上市陸前高田市の各地区グループが、昨年からは岩泉町そして久慈市内各地区の住民グループが取り組みはじめている。


市内24団体356人が実施
~ 台風被災乗り越えて ~

イメージ 4 支援センターがいきいき百歳体操を推進するのは高齢者数の増加と、それにともなう要介者数の増加をくい止めたいとの思いがある。元気な高齢者がどんどん減っていけば、地域活力が失われてしまうからだ。(*左写真は支援センターが入る保健福祉施設「元気の泉」)
 ちなみに、久慈市平成28年3月末時点の高齢者数は約1万1,000人(高齢化率29.6%)、うち要介護認定者数は2,262人(要介護認定率20.42%)。
 いきいき百歳体操は装着するオモリをふやしたり減らしたりできるので、元気な人から虚弱な人が体力をつけたいという場合まで無理なく行なえる対象間口の広い体操。熟年層また高齢者などがいつまでも長く元気に、地域のために活躍できるよう、そう願って支援センターはこの体操を推進することをイメージ 5決めた。したがって、単なる体操ではなく“いきいき百歳体操による地域づくり”というように“地域づくり“という言葉を付加したキャッチのもと推進している。
 市各地区への導入に際して、市民からの理解を得ようと行なったのが前述した市民体育館で8月29日に開催した講演会である。
 しかし、講演会の次の日の8月30日、台風10号久慈市を襲った。台風は市内の公共施設や商店、民家、道路などあらゆる建造物を全壊また半壊に追い込むなど、一人ひとりの暮らしを大きく傷つけた。(*上写真は台風10号の翌日の市内のようす) 
「市民のみなさんも私たち支援センターの職員も復旧が第一になったわけですから、正直、もうそれどころではないと思いました。でも、みなさんの思いは違っていました…、とてもうれしかった」と髙松さんは感激を隠さない。
 講演会では来場者に「いきいき百歳体操に興味があるか?」などの内容のアンケート用紙を配布し300人ほどが回答してくれた。300通のうち100通ほどが積極的に考えてみたいという意向を示していたという。
 地域展開をあきらめかけていた台風から1、2週間ほどたったある日、「私たちがグループを組んで百歳体操をやりたいのだけれど」という相談電話が飛び込んできた。その後は堰を切ったようにやりたいという連絡が続いたという。
 9月26日に支援センターは導入に向けた活動をあらためて始動。結果、2017年1月現在、市内24団体・356人がいきいき百歳体操を実施するにいたっている。  
イメージ 6 市中心部、長内町、小久慈町、夏井町、大川目町、宇部町、山形町内の各地区の住民がグループを結成し、それぞれ地区の公民館や役所の支所などを会場に週1回以上行なっているそうだ。なお、山根町は台風の影響がいまだ色濃いため現在のところ実施にはいたっていないが、地域住民は近々に取り組みたいという意向を示しているとのこと。
 いきいき百歳体操の効果を実感した住民の意思が急速に拡大したいちばん大きな要因であることに間違いはない。
 実際、山形町日野沢地区で「かじかの会」というグループが昨年12月12日に日野沢公民館で行なったいきいき百歳体操の現場(=左上写真)には、地区の主婦など15人ほどが集まり、熱心にこの体操に取り組んでいた。
「手を抜かないでやろうね」「でも、無理しちゃだめだよ」など和気あいあいとした会話が飛び交う。元気な一人に「熱心ですね」と声をかけると「みんなの顔を見て話ができることがとてもうれしいんです」と返してくれた。


みんなの力で踏み出す一歩

 支援センターによる導入サポートはどのように行なわれているのだろうか。
 いきいき百歳体操は手首や足にオモリをつけて、イメージ 7DVDを見ながら筋力向上トレーニングを週1回以上「住民主体で行なう」ものだ。そのため支援センターでは住民の「やりたい」という声を待つことを基本姿勢にしている。
 3人以上のグループであることが導入サポートを行なう条件で、実施するに当たって必要なオモリ、DVDなどは支援センターが住民グループに貸し出している。
 なお、支援センターによる「いきいき百歳体操開始お手伝い」は、地域グループが自身で運営していけるようになるための助走をサポートするもの。そのため、支援セイメージ 8ンターはスタートアップ時(開始1回目から3回目まで)に体操指導や体力測定また助言をなど行ない、4回目からは住民グループがすべての運営を完全自立で行なっていく。
「もちろん、何か困ったことがあれば気軽に連絡してきてください。その場合はいつでも出かけます」(髙松さん)というスタンスだ。
 いきいき百歳体操導入に当たっての関係主体は「支援センター」と「住民グループ」にとどまらない。
 支援センター内では髙松さんをふくめて3人の職員がサポートを担当しているが、多くの専門職のサポートを外部に仰いでいる。
 サポートしている外部専門職(=支援者)のメンバー数は25人ほど、久慈市体育協会の職員、病院や民間介護事業所のリハビリ専門職、在宅の保健師や看護師、歯科衛生士などで、必要時に支援者が地域に出向き、参加者の体力測定や体操の指導、助言などを行なっている。イメージ 9
 支援者たちは、より適切な導入また助言などを行なうために、これまで数回のミーティングをもって研修を重ねたという。
 もちろん、支援者のメンバー各自は自身の仕事のスケジュールをやりくりして地域に出向いているわけだ。
 以上のように、住民、行政、そして市内で働く人たちが心を一つにして進めているプロジェクトが「いきいき百歳体操」だ。
                 より適切な助言を行なうために支援者たちはミーティングを重ねた

とまらない笑顔の連鎖

 「3か月間で現れた効果を、53人の握力や開眼片足立ちなど5項目の体力測定の結果で見ると、改善した項目数の平均は3.15となりました。すべての項目が改善したという人も4人いました」(髙松さん)
 数字だけでなく、髙松さんが直接聞いた声は「膝の痛みがなくなったよ」とか「歩きやすくなった」といったもの。なかには「脚に水がたまっていたが、それがなくなった!」「杖なしで歩けるようになった」という声もあった。特に、下半身の筋力向上が見られたケースが多かイメージ 10ったそうだ。
 住民が主体になった運営は「地域づくり」の観点からみても高い効果を発揮している。
「百歳体操の会をやるよ」と住民どうしの声がけから会は実施されるのだから、地域コミュニケーションがより活性化する。会のさまざまな決めごと、当日のプログラムづくりも自分たちが行なっている。たとえば「会場を借りるのが有料だから会費制にして会計担当を決めよう」とか「体操が終わったあとにお茶の会をして地域情報を交換しよう」というように。
 開催案内のチラシを自分たちでつくって配布しているグループもある。体操のあと唄を歌ったり卓球をしたり、踊りを踊ったり…公民館の落ち葉拾いをして帰るグループもある。
「あの人が腰を痛めたと聞いたから、帰りに寄ってようすを見てみよう」という声も聞こえてきたが、これなど、いわば住民どうしによる「見守り支援」が行なわれていることにも等しいと思った。
 導入を機会に、会の名前もグループメンバーが自分たちで考えて名づけているのだという。イメージ 11
 楽しく笑いがあふれる会にしたいという思いを込めた「わらわら」、いつも元気な「はつらつ会」、百歳まで元気でいようと「お達者百歳」……決めているときの笑い顔が浮かんでくるようだ。
 今後は、歩いて15分以内の場所に1つのグループができることが理想で、市の人口を指標にすれば42以上の団体に取り組んでもらえるようにしたいとのこと。
「住民のみなさん、また支援者のメンバーのみなさんに本当に感謝しています。そして、これからも一緒になってみんなで健康に、地域の笑顔づくりに取り組んでいきたいと思っています」と言う髙松さん(=写真右)の顔にも笑みがあふれていた。


                 取材2016年12月21日、撮影・文 宇部芳彦/写真数枚は久慈市地域包括支援センター提供
                  *久慈市内の取組みグループ数および実施人数は、2017年1月現在の数字を記述した