シリーズ移住定住 その2 生涯活躍のまち

Bird's-eye view イメージ 1
シリーズ移住定住
若者とシニアが集まるまちへ
 

シリーズ移住定住【その2】 2017.2.22
日本版CCRCを知っていますか?
― シニアの力を地域づくりに -
    
   大方の地方は地域に活力をもたらす若者の移住定住者をふやしたいという思いが強いと思われるが、日本中が少子高齢化に悩んでいるのだから、それはたやすいことではない。すべての地方自治体が若者に移住してきてほしいということ、つまりそれは地方どうしが繰り広げる若者移住者の獲得競争が熾烈だということを意味している。
 それであればより可能性の高い、現実的な移住促進策を考えてみることもまた必要ではないのか? シニアをターゲットにする効果的な移住定住促進策はないのだろうか…。そう考えていたとき「日本版CCRC」のコンセプトにであった。
             

生涯活躍のまち
日本版CCRC

「東京圏をはじめとする地域の⾼齢者が、希望に応じ地方やまちなかに移り住み、多世代と交流しながら健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができるような地域づくりを目指す」というのが日本版CCRCのコンセプト(考え方)だ。
 もともと日本創生会議(座長・増田寛也氏)が「首都圏で将来、介護難民が生まれる可能性がある」と指摘しCCRC推進を求めたことがきっかけイメージ 2になって、これを受けた政府の「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍内閣総理大臣)は10回の審議を経て2015年12月に「生涯活躍のまち」構想と名づけ、その基本的な考え方や制度の方向性をまとめた報告書を作成し公表した。それが上記の日本版CCRC(=生涯活躍のまち)の考え方だ。
 従来の高齢者施設との違いは「健康なうちから入居」し「地域社会に溶け込んで多世代と交流・協働」することだと言う。

米国発のCCRC

  CCRCとはアメリカ合衆国で1970年代に登場した継続介護付きのリタイアメント共同体(Continuing Care Retirement Community)のこと。英文の頭文字をとってCCRCと呼ばれている。
 米国のCCRCは、高齢者が健康なうちに移住して新たなコミュニティを形成し、医療や介護が必要になってからもケアを受けて暮らし続けることができるまち。日常生活においては社会参加のメニューが用意され、健康支援また予防医学もプログラム化されていてできるだけ介護状態にならないようなシステムが張られている。現在、全米各地に約2,000か所あり、居住者は約70万人で富裕層が多い。市場規模は約3兆円に及ぶという。 イメージ 3
 この米国発のCCRCを日本流にアレンジして日本に導入しようというのが、先に紹介した「生涯活躍のまち」(=「日本版CCRC」)構想であり、政府は「地方創生の切り札」として推進する方針である。
 日本版CCRC構想の報告書には、つまり「日本流にアレンジ」しての展開モデルだと思われるけれども、たとえば入居者については50代以上で、東京圏からのほか近隣の都市からの転居も対象。米国では富裕層が入居するが、日本版CCRCでは厚生年金の標準的な年金月額で高齢者夫妻が入居できるモデルを基本にする。そしてサービス付き高齢者向け住宅を住居の基本とする。移住者と住民の交流が促進されるような拠点づくりにも配慮すること、さらに、空き家や空き施設など既存施設の活用も促す。また、地域包括ケアシステムとも連携させる…などが盛り込まれている。


検討する自治体が急増

 前述のように、まち・ひと・しごと創生本部は日本版CCRCの基本的な考え方や方向性を取りまとめた生涯活躍のまち構想最終報告書を2015年12月に公表したが、これを受けて各地方自治体が生涯活躍のまち構想を進めるにあたっては「地方版総合戦略」にこの構想を盛り込んだうえで基本計画を策定し、国と確認調整を行なうこととされている。
 岩手銀行シンクタンクである岩手経済研究所の発行する「岩手経済研究」(2016 年11月号)は「平成27年11月1日時点で生涯活躍のまち構想の推進意向がある地方自治体は全国で263団体、岩手県内では陸前高田市八幡平市雫石町矢巾町平泉町洋野町の6市町村が推進意向がある」と報イメージ 4じている。
 同誌はまた、「平成26年補正予算により生涯活躍のまち構想の関連事業に交付金(地方創生先行型交付金)を活用した地方自治体は、全国で37団体(5県32市町村)。27年度(地方創生加速交付金)は全国134団体(4県130市区町村)で、生涯活躍のまち構想の検討や推進を実施する地方自治体が全国的に増加している」と記述。この「関連事業に交付金」という意味は、「事業可能性調査への交付金」(=調査費用に交付金を使う)ということ。つまり、成立可能性を調査している自治体は平成26年度37、平成27年度は134に上っている。


生きがいを創出する
オークフィールド八幡平

 さて、岩手県内において先行している事例を紹介してみたい。
 それは、東北初の日本版CCRC「オークフイメージ 5ィールド八幡平」(=写真下)で、2015年12月1日に第1期が開設された。事業主体は、八幡平(はちまんたい)市で特別養護老人ホームなど各種の介護事業を手がける社会福祉法人みちのく協会を母体とする㈱アーベイン・ケア・クリエイティブ。
 八幡平市にある同施設はJR盛岡駅より東北自動車道を使い約40分、十和田八幡平国立公園に隣接し、南に岩手山、北に八幡平、東に姫神山を望む豊かな自然環境のなかに立地する。スキー場で有名な安比高原リゾートや八幡平リゾート、八幡平温泉郷などもクルマで数分から15分ぐらいと近い。
 八幡平版CCRCのオークフィールド八幡平は、サービス付き高齢者向け住宅(木造2階建て)全32戸の規模、そしてレストラン棟から構成される。各住戸周辺にはシェア農園(=写真下)があり、入居者はその農園を利用して自由に野菜や植物を育てるこイメージ 6とができる。また、旅のコンシェルジェが入居者の遊びをコーディネートするほか、地元の大学などと連携した各種学習プログラムや地元機関と連携したイベントなどの開催・支援も行なっていく。
「月刊シニアビジネスマーケット」(2016年4月号)誌は「入居者の平均年齢は74歳で男女比は半々。この後、第2、3期と計画が予定されており、総計80~90戸を完成させる」と報じている。
 できるだけ介護・医療を必要としない暮らしを目指しているが、必要とするときはクルマで1分の距離にある東八幡平病院そして母体法人が経営する特別養護老人ホームやケアハウスのほか、ディサービスセンターなどとの連携で在宅介護サービスを図るなど万全のサポート体制を敷いている。イメージ 7なお、別棟にあるレストラン「オークテラス」(=写真右)は予約制でランチ営業を行なっていて外部利用も可能としており、入居者と地域住民との日々の交流にも配慮されている…等々の運営を行なっている。
 入居条件は60歳以上。入居金は、敷金3か月分(5万8,000円×3か月分=17万4,000円)、そして自立の人の場合、家賃は5万8,000円(非課税)、食費4万9,500円(1日3食30日で計算した場合。税込)、水道代4,000円(固定)、管理費5万3,000円(非課税)で、合計月額利用料金は16万500円。なお、光熱費(電気代、ガス代)は実費となっている。
イメージ 8 オークフィールド八幡平の公式ホームページアドレスは「
http://urbane8.jp/」、また公式フェイスブックでは入居者の日々の活動のようすなどが伝えられている。 フェイスブックには、たとえばクリスマスに入居者と近隣の別荘地の人々と地元住民が一緒になりディナーを味わいジャズライブを聴いたようす、入居者が通っている太極拳教室の先生とともに入居者の太極拳の披露が行なわれたこと、入居者主催のアート教室、正月の新春朗読会、ビンゴ大会…などさまざまな活動が写真とともに公開され、入居者は地元住民また運営する事業主体と一体になり充実した日々を送っている、そうしたことがフェイスブックの笑顔の写真から見てとれる。
イメージ 9 オークフィールドのコンセプトは「生きがいの創出」である。
 ホームページには「創業者の想い」(社会福祉法人みちのく協会・前理事長/(株)アーベイン・ケア・クリエイティブ・前代表取締役の関口知男氏)として、このコンセプトが意味していることを具体的に書き込んでいる。多少長くなるが以下に抜粋してみる。まさに、至言である。
イメージ 10「医療・介護によるサポートに留まりません。私たちは介護の現場から一歩外へ出ていきたいと考えています。それは、シニアの方の余暇のお手伝いではございません。生きがいの創出こそが私たちの目指すことと考えております。
 誰かの役に立っている。誰かの役に立ちたい。人が再び立ち上がろうとするのはこのためではないでしょうか。たとえ引退した後であっても、元英語の教師であれば、ひきこもってしまった子供に自イメージ 12宅でゆっくり教えてあげることかもしれません。元金融マンであれば、これから起業する若者を支援することができるかもしれません。小さな畑であっても、そこを耕し、形の悪い野菜でも、無農薬でとびきり美味しい野菜を育ててみんなに食べてもらうことができるかもしれません。
 私たちはこれまで培ってきた皆様の貴重な経験を埋もれさせてはならないと思います。多くの経験をお持ちのシニアの方々に、もう一度地域を支える使イメージ 13命を担って頂きたいと考えております。それは最前線で若者と同様に働くことを意味するものではありません。みなさまのできる範囲での働きを意味しています。そして次世代へ皆様の知恵を伝承し、文化を継承していきたいと考えます」
          *
 そう、オークフィールド八幡平は施設ではあるけれども、単なる施設ではない。
 都市でビジネスを切り開いてきたシニア、専門技術やノウハウをもったシニア、高い人間力をもつシニアなど若者にはない能力をもつシニアは多数いる。そうであるならば、彼らの力は地域コミュニティの力になるはずだ。
介護保険を利用するから結局は行政の懐を痛める」との声には、「住所地特例」があることを紹介したい。介護保険では、住民票のある市町村が保険者(=保険料を負担する側)になることが原則だが、2016年4月から住所地特例がサービス付き高齢者向け住宅にも適用されることになった。これは、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に入所する場合に高齢者が移住先に住民票を移しても、移す前の市町村が引き続き保険者となる制度のこと。
「そうであったとしても、われわれ地方は都会の老人の受け皿か?」と言う声も聞こえてきそうだが、仮に移住シニアが途中で病院や介護サービスを必要とするようになったとしても、医療機関や介護サービスを利用するのだから地域のケア機関などの経営にメリットをもたらす。地元住民の暮らしに必要な機関の維持が期待できるし、そこで働く人(地元住民)の雇用にもつながると思われる。
 新築である必要はないし、タウンである必要もない。遊休ハードの活用でもいいと生涯活躍のまち(=日本版CCRC)構想も示している。
 必ずしも地方自治体のみが開設するものでもない(実際にオークフィールド八幡平は株式会社の経営である)。民間の人々によってもこうしたコンセプトでの展開は可能で、空き屋あるいは閉店した商店など小さな規模の建物であろうと住居として活用し、地域のさまざまなケアシステムとの連携をイメージ 11図り、移住してきたシニアたちと一緒になって笑顔あふれる地域コミュニティを創りだしていく。         
    *         
 こうした考え方があり、すでに取り組んでいる事例があることを記憶に留めてほしい。地域づくりは若者だけに許された特権ではないはずだから。
                                   オークフィールド八幡平の全景
                                               
        
  
                           *使用したすべての写真はオークフィールド八幡平のようす
              写真提供・オークフィールド八幡平/文・宇部芳彦(久慈市地域おこし協力隊)