シリーズ移住定住その3 オークフィールド八幡平

Bird's- eye view
シリーズ移住定住イメージ 1
若者とシニアが集まるまちへ 

シリーズ移住定住【その3】2017.3.7
 生きがい創出の拠点へ
   -  オークフィールド八幡平の挑戦  -
     
 2017年3月3日、岩手県八幡平市の日本版CCRC「オークフィールド八幡平」(はちまんたい)で「オークカフェ」が開催された。
 今回の「シリーズ移住定住その3」は、前回「その2」で紹介した日本版CCRCの考え方およびオークフィールド八幡平の概要に続いて、オークフィールド八幡平のコンセプト、運営の実際、そして移住してきたシニア入居者の生の声をお伝えする。東北初の日本版CCRCは何をめざしているのか?

                
DASH村をつくりたい
~やりたいことを実現する場に~

 人口約2万7,000人の岩手県八幡平市に、2015年12月にオープンしたオークフィールド八幡平(写真右下)。全国的にもいちはやく日本版CCRCのコンセプトを実現した施設として注目を集めている東北初の日本版CCRCオークフィールド八幡平の経営は、地元の株式会社アーベイン・ケア・クリエイティブ。イメージ 2
 シニアの移住定住を促進する日本版CCRC(*日本版CCRCのコンセプトの詳細は前回記事その2を参照)はどのような経緯で実現にいたったのだろうか?
「もともと私も、八幡平の自然の雄大さに惹かれて20数年前に東京から移り住んだ移住者なんですよ」と笑顔で話しはじめた山下直基(やました なおき)さん、昨年夏からアーベイン・ケア・クリエイティブの代表取締役を務めている(写真右下)。
「この地にDASH(ダッシュ)村をつくりたいねと、仲間がずっと以前から話していたんです。そんな夢ばかり一緒になって語っていたところ、山下お前その話を事業計画を立ててみんなの前でプレゼンしろ!ということになって…さあ、困ったなと (笑)」
 DASH村とは、日本テレビ系列で放送されたバラエティ番イメージ 3組「鉄腕!DASH!!」の中のコーナーの一つで、新たな村落を作るプロジェクト。タレントグループTOKIOの5人が地元の人などの協力を得ながら、民家の再生や農作物の栽培、動物の飼育などに励み、昔ながらの古き良き山村を再現し、そこでいきいきと暮らす姿が描かれていた。
 プレゼンに向けて山下さんはさまざまな資料などを手当たり次第に調べていたというが、CCRCというシニアの移住コミュニティのコンセプトにたどり着く。三菱総合研究所プラチナ社会研究センターの松田智生氏が提唱する「シニアが活躍する日本版CCRC」のコンセプトだ。山下さんは早速、東京に出向いて松田さんにCCRCについての話を詳細に聞いたという。
 これだ!と結論した山下さんは、地域も巻き込んで一緒に考えようと松田氏を八幡平に呼び講演してもらい、所属する法人はもとより市(行政)また地域住民への理解を求めるなどして実現に向けた歩みがスタートする。こうした試みによって、市との協力関係も築かれていく。たとえば、アーベイン・ケア・クリエイティブが主催する八幡平版CCRCの実施に向けた「ワークショップ」や「シンポジウム」などにも八幡平市が後援で名前を連ねた。また、2015年7月に西根地区市民センターで開催された「日本版CCRC構想勉強会」の主催は八幡平市である。
 このように地域をあげての協力体制のもと、2015年12月にオークフィールド八幡平はオープンした。事業主体はあくまでもアーベイン・ケア・クリエイティブであり、明確な事業責任あってこその信頼を創り上げていく。さらに言えば今後、第2期、第3期と事業展開していく計画だが、すでにその敷地もアーベイン・ケア・クリエイティブは確保・取得している。
 いずれにしても、イメージ 4オークフィールド八幡平の第1期オープンは八幡平の魅力を高めよう、よりよい地域をつくろうと行政や地域住民の理解を支えに「夢を叶えた」施設であると言える。
 まだまだこれからが踏ん張りどきとくり返していた山下直基社長だが、「政府が日本版CCRCを『生涯活躍のまち』と名づけたことは知っていると思います。私たちがめざすオークフィールドの姿もまさに生涯活躍のまちなんです。入居シニアも私たち職員も地域の人々もいきいきと暮らす拠点としてオークフィールドは存在していく。施設ですが施設ではないんです。やりたいことを実現する場所、いきいきとしたコミュニティをつくるソフト機能を担う誰にでも開かれた場にしていく」と目に力を込めた。



若者に負けずもう一花
~ 地域で働く入居者も ~

 「どのように運営しているのかぜひ見て行ってください」とインビテーションを受けてオークフィールド八幡平のレストラン「オークテラス」のようすを見学した。
イメージ 5 オークフィールド八幡平では入居者と住民が交流する企画の一つとして「オークカフェ」を毎週金曜日に開催していく。この日3月3日は、コーヒーまた茶菓とともにアートフラワーをつくる「暮らしの保健室もりおか 繭(まゆ)クラフト手づくり体験」が開催されていた。
 盛岡市でまゆクラフト・フラワーデザインの「工房夢繭*花」を主宰する江見夏恵さんを地域の住民、近隣の別荘地在住の人また入居シニアが囲み、一緒になり黄色いまゆを花中に用いたアートフラワーをつくっている。美味しいコーヒーは伊藤實さんイメージ 6が淹れる。伊藤さんも地域の住民であり、地元一のコーヒーマイスターとして知られる存在だ。
 茶菓には入居者手づくりのパウンドケーキ、そしてオークテラスシェフによる干し柿の抹茶揚げが提供された。この干し柿も地元の住民がオークフィードへ持ってきてくれたもの。ちなみに、オークテラスのシェフはかつて安比グランドホテルの料理長を務めた人。
「黄色いまゆがあるの?」「カイコは桑の葉を食べるけれども、桑の葉にはアンチエイジングの成分があるという研究をした人もいる」といった会話が飛び交う。実に和気あいあいとした交流風景であり、さまざまな知識が披露される場でもあった。イメージ 7
 「研究」という言葉にひときわ目を輝かせたシニアがいたので話を聞いてみた。名前は山下哲美(やました てつみ)さん(=写真左下)、奥さんのひろみさんとともに昨年6月にオークフィールドに移住してきたと言う。以下はそのやりとりだ。
 
 ―― 山下さんはおいくつですか?
 山下 90歳です、東京から女房と一緒にきました。
 ―― なぜここに移住してきたのですか
 山下 女房がぜひここに住みたいと言いましてね。私も一緒に下見に何回かきています。悩んだのですがきてよかった、正解でした。
 ―― 正解という理由は?
イメージ 8 山下  私は現役時代に環境工学の仕事(さまざまな環境問題を技術的に解決したり、環境を向上させたりする仕事)をしていましてね。ここは自然環境がすばらしいので、その環境を実際に、大げさに言えば地球規模で体感できるのです。そのほかにも、この地域の人々の生き方がピュアなことに感激しています、とても親切な人が多い。
 ―― そのほかに日常で面白いことはありますか?
 山下  ここオークフィールドには大学生がよくきます。研究成果を発表する講座を開催したり、あるいは研究材料を集めにくるんです。そうした熱心な大学生と議論したり、意見を交換したりしますがとても楽しいですよ。彼らの姿を見ていると私も負けてはいられない、私ももっと勉強してもう一花咲かせようと考えています。
 そうそう、今日はCCRCについての取材だとあなたはイメージ 9おっしゃいましたが、先日大学生がCCRCの研究にきました。私はCCRCの資料を集めて読み込んでいましたので、その大学生に教えてあげました、もちろん資料のコピーも渡しました。時間があればCCRCについていろいろと意見交換しましょうか(笑)。
 ―― ありがとうございます。奥さんはなにが決め手になって移住したいとおっしゃっていたのですか?
 山下 自然がすばらしいからと言っていました。綺麗な水と空気と景色、その中で呼吸していると、細胞の組成が入れ替わるようだと。私自身も若返ったように感じています。
 ―― この建物の外に出ての活動は、たとえばどのようなことを行なっていますか?
 山下 そうですね、東京の自宅の庭ではバラを育てていたのですが、こちらにそのバラを持ってきまして、となりの施設のところにそのバラを移植しました。施設ではとても喜イメージ 10んでくれて「山下ガーデン」と名づけてくれました。バラは5月から秋口まで咲いていましたから、少しは地域のためにお役に立てたかなとうれしく思っています。また今年も綺麗に咲いてくれるように、手入れをしないといけないなと考えていたところです。
 ―― となりの施設といいますと…‥となりの敷地にある特別養護老人ホーム富士見荘のことですね?
 山下  老人ホームと言うと失礼ですよ、私自身も90を超したシニアですから(笑)。
 ――  失礼しました。とてもお元気なので90歳とお聞きしたことを忘れていました。
 
 なお、山下哲美さんご夫妻はペットの犬も一緒に移住させ、居室に住まわせているそうだ。
 そのほか、入居者のなかには介護の資格をもつ80歳の女性もいる。その女性は近くの介護施設で介護イメージ 11士として働いているとのことで、まさに持てる力を地域のために発揮していると言えよう。
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 当日オークテラスには薪ストーブが赤々と燃えていた。燃料はもちろん薪である。「薪割りは入居者に手伝ってもらっています」と職員の一人は言っていた。
 住居棟も、共用廊下部分にあえて緩やかなスロープ階段を設置し入居者の日常の運動などに取り入れているほか、居室内のトイレにも手すりは設けていない。「手すりは必要になればいつでも取りつける」と言う。住居棟とレストランを別棟にしたのも、入居者の外出頻度をふやすことが目的だ。イメージ 12
 自然の豊かさが決め手になったと山下ご夫妻も言うように、各居室には板張りのテラスがある。すべての居室のテラスは岩手山の正面に位置しているため、プライベートビーチならぬプライベートマウンテンとして岩手山の雄姿をいつでもわがものにできる。
「シニアの活力と知恵を地域で活かしていただき八幡平が活性化する、そうなるように私たちはチャレンジを続けていきます」と前を向く山下直基社長だ。
    
                         取材2017年3月3日
                                 写真・文/宇部芳彦(久慈市地域おこし協力隊)